◆日本史大戦略◆ 西関東・北東北の史跡を踏査し歴史を考察!

第15回 師行出陣と尊氏の九州下向

 その頃、津軽でも戦闘が行われていた。建武3年(1336)正月7日には、師行は政長らを率いて津軽藤崎・平内城に出張り、成田六郎左衛門尉とともに曽我余一左衛門尉貞光や安藤五郎次郎家季らと戦った。これは師行が合戦に出たことを示す珍しい例でもある。今までの津軽での戦いは、建武政権と旧幕府軍との戦いであったが、今回の南部氏らと曽我・安藤氏との戦いは、建武政権と尊氏との戦いとなっている。曽我・安藤の裏では、尊氏が手を引いており、顕家の西上にあわせて決起させた。曽我・安藤両氏ともにかねてから陸奥国府からは冷遇されており、安藤五郎次郎家季は去年建武政権から本領を安堵された安藤五郎太郎高季の弟であると考えられる。陸奥国府も安藤らの挙動には注意していたので、多田貞綱を更迭したあとの津軽のとりまとめに師行と成田泰次を起用した。

 

 正月13日には、尊氏勢の浅利六郎四郎清連や曽我太郎貞光が津軽で国府軍と戦い、浅利勢はさらに新田彦次郎政持、成田小次郎左衛門尉頼時、師行代官の小笠原四郎や鳴海三郎二郎らと合戦した(『遠野南部家文書』建武5年5月11日付け「浅利清連注進状」)。20日には、曽我貞光が舩水楯で国府軍の小笠原孫四郎と合戦した(『遠野南部家文書』貞和3年(1347)5月付け「曽我貞光申状土代」)。師行の代官が転戦しているようなので、師行は前線後方で全体の指揮を執っていたと考えられる。

 

 津軽での戦いは、その後もまだ続く。

 

 一方、丹波からさらに西に向かった尊氏は、2月に醍醐寺三宝院賢俊の仲介により、念願の光厳上皇の院宣を得て朝敵を免れた。そして九州に向かい、3月2日、多々良の浜(福岡県福岡市東区)の干潟で九州最大の建武政権勢力である菊池武俊を打ち破り、大宰府を占拠した。

 

 その頃奥州では、尊氏側の斯波家長が、相馬光胤を家長の従弟兼頼に属させ、東海道方面を討たせている。その動きに対応させるように、後醍醐は3月10日、義良親王を元服させ陸奥太守に任じ、鎮守府大将軍北畠顕家ともに、再度陸奥に下向させ、3月20日には、結城親朝を下野守護に任じるなど東国支配の再構築を行っていった。今回の顕家の奥州下向に際して、父の親房は伊勢に留まった。

 

 3月25日には、北条氏の残党と斯波家長が戦っている。家長は建武政権だけでなく、旧政権とも戦わなくてはならず、寧日の暇がなかった。

 

 4月には、師行の代理の氏綱という人物が、甲斐の所領の所有に関する申状を認めており、その案(下書き)が残っている。師行が甲斐の所領奪還に執着している様子が想像できる。代理人が書いているということは、師行は正月の津軽出陣のあとも、糠部の役所に戻っていないようだ。既述した通り、師行は津軽出陣の後は国府に向かい、糠部の郡衙には政長が残ったのであろう。したがって、これまでの文書(師行宛てのものも含め)で師行が津軽に出陣する前のものは居館に保管されていたので無事に政長に継承されることになった。

 

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次回、「第16回 尊氏の復活と南北朝時代の幕開け」はこちら

 

北の南朝 −南部師行・政長兄弟− 目次

第1回

後醍醐天皇

第2回

南部時長らの奮戦と鎌倉幕府の滅亡

第3回

奥州小幕府

第4回

南部師行の糠部派遣

第5回

津軽安藤氏の乱

第6回

鎌倉幕府の滅亡と曽我氏の内部対立

第7回

糠部郡衙での師行

第8回

北奥になかなか根付かない建武勢力

第9回

認められない旧得宗領の所領宛がい

第10回

持寄城降伏

第11回

師行が手にした津軽内摩部郷

第12回

師行の津軽出動と中先代の乱

第13回

師行文書の終焉と尊氏の謀反

第14回

顕家の第一次西上作戦

第15回

師行出陣と尊氏の九州下向

第16回

尊氏の復活と南北朝時代の幕開け

第17回

顕家の第二次西上と師行・顕家の死

第18回

後醍醐の死

第19回

顕信奥州に登場

第20回

津軽・糠部方面の戦いの終焉

第21回

北関東と南奥の情勢

第22回

多田系和賀氏の発祥

第23回

政長の死
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